庭の端にある夏みかんの木が実をつけた。
ついこの間まで、白い可愛らしい花をいっぱいにつけていたと思ったのに、気付いたらこんなに美味しそうな実になっているんだから季節の流れの速いこと、何とも驚かされる。

――明日にでも、一緒に収穫しましょうか

宗次郎とそう約束していたから、その夜は収穫に備えて少し張り切って、いつもより早く床についた。早く明日を迎えたくて、目を閉じる時にも、口元が綻びそうになるのを頑張って堪えた。甘くてすっぱい夏みかんを、明日の今頃にはいっぱいに頬張れるんだと思ったらそれだけで、とても幸せな気分。
わたしが嬉しそうなのには宗次郎も気付いていただろうけど、彼も相変わらずにこにことしていたから、やっぱりわたしと同じように楽しみにしてたんだと思う。






目覚めたら、わたしは真っ先に雨戸を開け、良く晴れた空を確認して、お天気の神様にありがとうを言った。いつでも、わたしたちって結構、天気には恵まれている方だと思う。今日だって眩しい太陽がきらきらと照らしていて、わたしは目を細めて空を見上げた。


――宗次郎、早くっ

朝食もそこそこに、わたしは宗次郎の手をとって、昨日のうちに納屋から出してあった籠を片手に、夏みかんの木の下へ走った。
綺麗な柑子色の夏みかんは、まるで太陽の光の色をそのまま映したみたいにきらきらしている。木は大ぶりの実を幾つもつけていて、わたしは宗次郎に肩車をしてもらって、鮮やかな夏みかんたちを収穫した。ひとつもぎ取っては宗次郎に渡して、それを宗次郎が籠に入れる。

――これはまた、大豊作ですね

宗次郎の言葉通り、小さな籠がたちまちいっぱいになるくらいの夏みかんは、ふたりでは食べきれないくらい。こんな山奥にぽつんと暮らしていたんじゃあ、お裾分けするようなお隣さんも居ないし。静かでいいところだけれど、こんなときには寂しいんだからなあ。と思いながら、わたしはとりあえず、籠の中の夏みかんをひとつ手に取って、力をこめて皮をむいた。夏みかんの皮って、案外固い。
親指で蔕をむいたら、柑橘のさわやかな甘酸っぱい香りがぷしゅっと広がって、そこら中が夏みかんの匂いでいっぱいになったような気がした。

――おいしそーう

ひとつとって口に運ぶと、その匂い通りのすっぱいのに甘い、でも、やっぱりすっぱい独特の味が口の中に広がって、何だかとても幸せな気持ちになる。宗次郎にもひとつ渡したら、それを食べた宗次郎は、わたしと同じで嬉しそうににっこりと笑った。

――美味しいですね
――でしょう

二人で笑いあって、それから籠一杯の夏みかんを見詰めた。

――これから、いっぱいいっぱい食べられるね
――そうですね、飽きるくらいに



ふたりで、夏みかんのおかげでずっしり重たい籠を持って台所へ運んだ。毎日、ふたりで食事をした後、決まって夏みかんを食べてはそのたびに嬉しい気持ちになるんだろうか。

それって、なんて幸せなことだろう。

夏みかんの柑子色が、太陽に照らされてきらりと光っている。