鮮やかな秋の日。
空は高く青く澄んでいて、深く呼吸をすれば少し冷たくなった淋しげな秋の風が胸を一杯に満たす。僕も彼女も秋が好きだ。美しさも鮮やかさも寂寥も透明感も何もかも、この季節には一気に味わうことが出来るので。ああ、秋とは何て欲張りな季節なのだろう。木々は実りの季節を迎え、葉は眩しくその色を変え、高い空には赤とんぼが我が物顔で舞う。彼岸花の哀しげな装いが彩りを添える庭は、まるで絵に描いたような秋を映している。


――いい秋だね

隣で、彼女が呟く。

――ぼうっとしてたら、すっかり、秋色
――秋色、ですか、いいですね

並んで縁側に腰をかけた僕たちは、何をするわけでもなく、ただ秋に染まった庭や遠くに広がる山々を眺めるだけで、忙しなく商いをする町の商人たちからしてみれば、なんとも不毛なだけのように見えるであろう時間を過ごす。それでもその時間とは、僕らには何より大切で何より幸せな、感謝の時間だ。今年もこうして美しい秋が巡ってきたことに。色付いた鮮やかな赤が目を楽しませてくれることに。隣に、愛しいひとが居てくれることに。僕は何度でも感謝をする。何より大切なもの、僕が辿り着くべき真実に、導いてくれるひと。

――ねえ、宗次郎

今まで話していたのに彼女がこうして改めて僕の名を呼ぶときは、必ず、何か彼女なりの名案を思い付いてそれを提案する時なのだと決まっている。ので、恐らく今も何か面白いことを思いついたんだろうと容易に想像がつく。その証拠に、返事に答える代わりに彼女の方を向いたら、柔らかい頬にいっぱいの笑みを称えてきらきらした目をしていた。

――もう少し風が吹いて、葉が落ちたら、

彼女は庭中を見渡すようにして。

――葉を集めて、焚き木をして、それで、焼き芋をしようね

何とも嬉しそうに微笑み、言う。そうしたら僕はいつだって、肯定して頷くより他なくなるのだ。ああ、でも、提案をするのはいつでも彼女だが、僕だってそれを楽しみにしていないわけではない。それに、彼女が楽しそうにそうやって笑うのを見ると、それだけで心の芯から何か暖かなものが溢れて来るような、優しくなれるような、そんな気持ちになる。彼女に出会うまで知りもしなかったこの感覚。ああ、本当のところはもう知る由もないけれど、由美さんもこんな風に、志々雄さんを想っていたんだろうか。


――やっぱり焼き芋を食べなきゃ、最高の秋とは言えないもの
――結局、食欲の秋、ってことですか
――そうじゃないよ、ただ、わたしは純粋に季節の味覚を楽しみたいだけ

冗談めかして笑いあう。
明日も明後日も、来年も再来年も、きっと僕らは変わらずここでこうして笑っているだろう。僕らに進化は必要ない。今ここに存在する幸せをこぼさぬように二人で大切に抱えて、自分たちの足で一歩ずつ歩くだけだ。


世界は秋の深緋色。
もうすぐ夕焼けがきみの頬も深緋に照らす。